我々の前に突如として現れた『Tay-Z』とは誰であり、何者なのか?
今や50代以下のスマートフォンの音楽アプリには確実にインストールされていると言っても過言では無い彼の音楽性はアンダーグラウンドから歌謡ポップスまで、あまりにもレンジが広く、もはや彼こそが音楽であり、ストリート・カルチュアなのだ。
『Tay-Zは現象である』by V. Abloh
かの(故)ヴァージル・アブローでさえ、Tay-Zについては「彼の存在はジェラシーでしかないが、マルセル・デュシャンとTay-Zこそが私にとってのアジール(聖域)なんだ」と語っていた。
その後のヴァージルはOff-White™を立ち上げ、Louis Vuittonのクリエイティブ・ディレクターに就任し、目覚ましい活躍を見せることになるのだが、Tay-Zが彼に与えた影響は今となっては計り知れない。
LVMHのCEOベルナール・アルノーが最後まで二人のどちらを迎え入れるのかで悩み抜き、最後は日本語で「ドチラニシヨウカナ、テンジンサマノイウトオリ・・・」と唱え、結果としてヴァージルが選ばれたというのは世界のファッショニスタの間では有名な逸話である。
独占インタビュー
そんなTay-Zが三十年の沈黙を破り、ついに我々の前に”Tay-Z & THE POSSE“というバンドと新曲を引っさげて一夜限りのライブ・パフォーマンスを金沢で繰り広げるという。
我々はライブ直前の超過密スケジュールで世界を飛び回るTay-Zとのコンタクトに成功し、ついに15分の独占インタビューの機会を得た。
「Tay-Zさん、お忙しいところ貴重なお時間をありがとうございます」
「挨拶はいいよ、忙しいんだから早くしよう」
「本日は15分のお時間を頂戴しております」
「わかってる、池中玄太80キロの再放送を我慢して時間作ったしね」
「ではさっそく、今回なぜ三十年ぶりのライブになったんですか?」
「すげえ忙しかったからね。来日も久しぶりなんだ」
「日本に来られて、まずは何をされたんですか?」
「大好物の松屋の『牛焼肉定食』を食べたよ、サラダにはもちろん白ドレッシングをたっぷりとかけてね」
「松屋なんて食べられるのですね、意外でした」
「ソウルフードみたいなものかな? たまには食べないとNo Soul Tay-Zになってしまう」
「ファン待望の新曲を引っさげてのパフォーマンスと伺っています。どのような曲なのでしょうか?」
「まだ作ってないよ、降りてきてないしね」
「降りてきてない。というのは?」
「神だよ、神。音楽のさ、わかるだろ?」
「音楽の神というと、アポロンですか?」
「そいつのファーストネームなに? そっち言われないとピンとこないな」
「ちょっとそこまでは・・・」
「いいかげんな質問すんなよ! こっちは忙しいんだからさ!」
「失礼しました。話題を変えましょう」
「もう5分も経っちゃったからね、君のせいでね」
「新曲の他には、どんな演奏を予定されていますか?」
「カヴァーが中心かな、みんなが聴きたい曲をね、大胆にね」
「それは楽しみです。ちなみにどんな曲をカバーされる予定ですか?」
「誰もが知ってる曲になるかな。バッハとかモーツアルトクラスのね」
「クラシックという事ですか?」
「いや、クラスって言ってんだろ? 六本木クラス、観てないのかよ?」
「梨泰院クラスじゃなくて、ですか?」
「そっちは観てないんだよ、面白いの?」
「そっちが先だと思うんですけどね・・」
「早乙女太一、意外に良い演技してるよね」
「いえ、それを言うなら平手友梨奈だと思いますけど・・」
「俺は、ソフィー・マルソーの方が好きだけどなぁ」
「話を戻しましょう」
「もう10分経っちゃったからね、君のせいでね」
「今回のツアーメンバーを教えて下さい」
「POSSEっていうのは、HipHopのスラングで『仲間』って意味なんだ」
「そうなんですね」
「そう、だから仲間だね。全員がね」
「シロウトさんですか?」
「そうだけど、なんか問題ある?」
「いえ、問題は無いのですが」
「あ、一人だけプロがいるけどね」
「どなたですか?」
「八尾出身のKENJIROさんだよ、ピアノマンでナニワのビリー・ジョエル」
「急に情報量が多いですね」
「俺は出来ること、出来ないことを真剣にやるつもりだよ、徹底的にね」
「楽しみにしております」
「あたりまえだよ! 俺が楽しみにしてんだからさ!」
「あ、ちょうどお約束の15分が経ってしまいました」
「俺もSkypeの時間だから」
「ZOOMじゃないんですね・・」
「とにかくさ、最高で最高の夜になるはずだからさ、頑張れよ!」
「はい、え?私がですか!?」
「俺たちがだよ!」
お読み頂いたように、Tay-Zのライブにかける気迫に、我々取材陣は終始圧倒されっぱなしだった。
その熱量が伝わってくるインタビューとなったが、如何だっただろうか?
青年時代に音楽家を目指し上京したTay-Zは、余りある才能のせいで起業家として成功してしまった。これに関しては日頃から「俺はビジネスのヤロウが憎いし、悔しいんだよ」と言っており、Tay-Zにとって今回のライブは臥薪嘗胆でもあるのだろう。
Tay-Zは全人類に問うているのだ。
「みんな、やってるか?」と。